男性不妊診療とは

男性不妊診療とは、精子の数・運動性・DNAの状態などを評価し、不妊の原因を明らかにしたうえで、妊娠の可能性を高めるための検査・治療を行う診療分野です。

対象となる方
  • 妊娠を希望しているがなかなか授からない方
  • 精液検査で異常を指摘された方
  • 体外受精を行っても受精率が低い方

不妊の原因について、WHO(世界保健機関)の報告では、女性のみに原因がある場合(女性不妊)が約41%、男性のみに原因がある場合(男性不妊)が約24%、男女双方に原因がある場合が約24%とされています。
男性不妊と男女双方に原因があるケースを合わせると約半数の症例で男性側にも要因が関与していることが分かっています。

そのため、不妊の原因を調べる際には、女性だけでなく男性も一緒に検査を受けることが大切です。
男性不妊の検査として最も一般的なのが精液検査です。
精液は、通常、マスターベーションにより採取し、検査前にはおおよそ2〜3日程度の禁欲期間を設けます。採取はご自宅、または院内で行っていただくことが可能です。
精液検査では、精液量、精子の濃度、運動率、奇形率などを顕微鏡下で詳しく評価します。
なお、当院では精液検査に加え、DFI検査(精子DNA断片化指数検査)や、精子の酸化ストレス検査も実施しております。
より詳細な精子の状態を確認することで、治療方針の検討に役立てています。

東京ARTクリニックの男性不妊診療の特徴

  • 生殖医療専門医と男性不妊専門医による連携診療
  • DFI検査、酸化ストレス検査を含めた精子の質の総合評価
  • micro-TESEや静脈瘤手術まで院内で男性不妊治療も一貫して対応
  • PICSI/IMSI/Harvesterなど高度精子選別技術とARTを組み合わせた治療

DFI検査

DFI検査(精子DNA断片化指数検査)とは

DFI検査とは、「DNA Fragmentation Index(DNA断片化指数)」の略称で、精子のDNAがどの程度損傷しているかを調べる検査です。
通常の精液検査では、精子の数や運動率、形態などを評価しますが、DNAの状態までは分かりません。
DFIの数値は、精子DNAの損傷割合を示しており、数値が高いほどDNAの損傷が多い状態を意味します。
精子DNAの損傷が多い場合、受精率や胚発生率、妊娠率の低下、さらに流産リスクの上昇との関連があると報告されています。
DFI検査は、以下のような方に検討される検査です。

  • 不妊の原因がはっきりしない場合
  • 精液検査では明らかな異常がみられないにもかかわらず妊娠に至らない場合
  • 体外受精や顕微授精を行っても受精しにくい場合
  • 肥満、喫煙、過度なストレス、加齢など、精子DNAを損傷させやすい環境(酸化ストレスが高い状態)にあると考えられる場合

検査方法は精液検査と同時に実施可能で、採取した検体は外部の検査機関に提出し、特殊な染料を用いて精子DNAを標識し、フローサイトメトリーという解析装置を用いてDNA損傷の程度を測定します。
DFIの数値が高いと判定され、原因がある程度推定できる場合には、生活習慣の改善や治療方針の見直しなど、状況に応じた対策を行っていきます。

精子の酸化ストレス検査について

酸化ストレス検査では、精子にダメージを与える要因の一つである酸化ストレスの状態を評価します。
酸化ストレスが高い状態では、精子の運動性低下やDNA損傷が起こりやすくなり、顕微授精後の胚発育や妊娠率にも影響する可能性があります。
生活習慣(喫煙、過度の飲酒、睡眠不足、ストレスなど)や加齢、炎症などが関与すると考えられています。
これらの検査結果をもとに、治療方法の選択だけでなく、生活習慣の見直しやサプリメントの検討など、個々に合わせたアドバイスを行うことも可能です。

生活習慣の見直し

酸化ストレスが高まりやすい環境にある場合、それ自体が精子DNAの損傷を引き起こしやすくなるため、日頃の生活習慣を見直すことが大切です。
具体的には、肥満がある場合には適正体重を目指すこと、飲酒習慣がある方は節酒、喫煙されている方は禁煙、睡眠不足の方は十分な睡眠を確保するなど、無理のない範囲から改善を行っていきます。
また、精巣を過度に温めることは精子の状態に影響を与えるとされているため、長時間の入浴やサウナの利用は控えめにすることも重要です。
このほか、必要に応じて医師の判断のもと、抗酸化作用が期待されるサプリメントの摂取を検討する場合もあります。

何らかの疾患が原因となることも

DFIの数値が高くなる原因として、生活習慣以外に精索静脈瘤が関与している場合もあります。
精索静脈瘤とは、精巣周囲の静脈で血液の逆流やうっ滞が起こり、静脈が拡張する状態を指します。
精巣の温度上昇や血流障害を引き起こすことで、精子の質に影響を及ぼすことがあるとされています。
なお、男性不妊症の方の約3~4割に精索静脈瘤がみられるともいわれており、必要に応じて追加検査や治療をご提案することがあります。

男性不妊手術

男性不妊を改善させる手術としては、主に以下の手術療法があります。

精索静脈瘤手術

精索静脈瘤手術とは

精索静脈瘤による男性不妊が原因の患者さまに行われる手術療法です。
精索静脈瘤とは、精巣(睾丸)周囲の静脈がこぶ状に拡張し、血液の逆流やうっ滞が起こることで発症する疾患で、多くは左側の精巣にみられます。
このような状態では、精巣の温度上昇や血流障害が生じやすくなり、酸化ストレスが増加することで精子DNAの損傷や精子機能の低下につながるとされています。
その結果、男性不妊の原因となることがあります。
精索静脈瘤手術は、こうした状態を改善するために行われる治療のひとつで、静脈瘤の原因となっている静脈を結紮し、血液の逆流を防ぐことで症状の改善を目指します。
当院では男性不妊専門の医師が、顕微鏡下低位結紮術を行っています。
鼠径部を数センチ切開し、精索を体外へ引き出したうえで、顕微鏡を用いて拡張・うっ滞している静脈を確認し、これを結紮します。
局所麻酔下で行うことも可能な手術です。
この手術により、精子の運動率や濃度の改善が認められる患者さまも少なくありません。

精巣内精子採取術(TESE)

精巣内精子採取術とは

精液中に精子が存在しないとされる患者さま(無精子症)であっても、精巣内には精子が存在している可能性があります。
その場合に行われるのが、精巣内精子採取術(TESE:Testicular Sperm Extraction)です。

非閉塞性無精子症の場合

非閉塞性無精子症(精子の通り道に閉塞がなく、精子形成自体が低下している状態)の患者さまでは、顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)が行われます。
陰嚢を小さく切開し、精巣を体外に出した状態で手術用顕微鏡を用いて精巣内を詳細に観察し、精子が含まれている可能性の高い精細管を選択的に採取します。
採取した組織は、別の顕微鏡下で精子の有無を確認し、精子が認められた場合は顕微授精(ICSI)に用いられます。

閉塞性無精子症の場合

閉塞性無精子症は、精子の通り道が詰まっていることが原因で起こる無精子症で、精巣内では比較的正常に精子が作られていることが多いとされています。
この場合は、従来型の精巣内精子採取術により精子を採取することもあります。
いずれの場合も、採取した精子は顕微授精に用いられ、妊娠を目指した治療が行われます。

よくある質問

Q. 精液検査は1回で判断しますか?

精液の状態は体調や生活習慣、検査時期などによって変動するため、原則として1回の結果だけで判断することはありません。
必要に応じて複数回検査を行い、総合的に評価します。

Q. DFI(精子DNA断片化指数)が高いと自然妊娠は難しいですか?

DFIが高い場合、受精率や胚の発育、妊娠率に影響する可能性があると報告されています。ただし、DFIが高くても自然妊娠が成立するケースもあり、必ずしも妊娠できないというわけではありません。 当院ではDFIの結果だけで判断せず、年齢や他の検査結果も含めて総合的に治療方針を決定しています。

Q. 精索静脈瘤は必ず手術が必要ですか?

すべての精索静脈瘤に手術が必要なわけではありません。
精液所見や症状、妊娠の希望状況などを考慮したうえで、手術が有効と判断される場合にのみご提案しています。
軽度の場合は経過観察や生活習慣の改善のみで対応することもあります。

Q. 無精子症でも妊娠は可能ですか?

無精子症の場合でも、精巣内に精子が存在するケースでは、精巣内精子採取術(micro-TESEなど)によって精子を回収し、顕微授精を行うことで妊娠が可能な場合があります。
当院では、男性側の検査・手術から顕微授精まで院内で一貫して対応しています。

Q. 男性側の治療だけで改善することはありますか?

生活習慣の改善や薬物療法、精索静脈瘤手術などにより、精液所見が改善する場合があります。
ただし、すべての方で十分な改善が得られるわけではないため、女性側の年齢や卵巣機能も考慮しながら、体外受精・顕微授精(ART)を含めた総合的な治療戦略をご提案しています。