着床不全・不育症に対する検査・治療とは、胚移植を繰り返しても妊娠に至らない場合や流産を繰り返す場合に、その原因を多角的に評価し、妊娠しやすい環境を整えるための療です。
- 対象となる方
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- 良好胚を複数回移植しても妊娠しない方
- 流産を繰り返している方
- 着床や妊娠継続に不安のある方
着床不全
着床不全とは
体外受精や顕微授精で得られた形の良い胚(受精卵)を子宮に移植しているにもかかわらず、妊娠(着床)に至らない状態が続くことを「着床不全(反復着床不全)」といいます。
一般的には良好胚を2〜3回移植しても妊娠しない場合に疑われます。
着床しない原因にはさまざまなものがあり、以下のような要因が考えられます。
胚(受精卵)側の原因
胚に染色体異常などがある場合、見た目が良好でも着床しないことがあります。
子宮側の原因
子宮筋腫・子宮内膜症・子宮内膜ポリープ・子宮の形態異常などにより、胚が着床しにくい状態になることがあります。
その他の要因
- 子宮内フローラ(子宮内環境)の乱れ
- 「着床の窓(WOI)」のタイミングのずれ
なども関連すると考えられています。
また、受精卵は半分が父親由来の遺伝子を持つため、本来であれば免疫システムにより排除される対象となり得ますが、妊娠成立のためには母体側が受精卵を受け入れる免疫の働き(免疫寛容)が必要です。
このバランス異常が着床障害の一因となる可能性があります。
不育症
不育症とは
妊娠は成立するものの、流産や死産を繰り返してしまう状態を「不育症」といいます。
流産を繰り返すことは、身体的にも精神的にも大きな負担となるため、原因を調べ、必要な治療につなげていくことが大切です。
一般的に、
- 2回連続して流産した場合を「反復流産」
- 3回以上流産が続く場合を「習慣流産」
と呼びます。
不育症の原因はいくつかありますが、最も多いとされるのは胎児(受精卵)の染色体異常です。
また、それ以外にも以下のような要因が関係することがあります。
不育症の主な原因(代表的なもの)
- 夫婦いずれかの染色体異常(均衡型転座など)
- 抗リン脂質抗体症候群
- 先天性の子宮形態異常
- 胎児の染色体異常(最も多い原因)
これらは「不育症の主な原因」として知られており、検査によって評価が可能です。
原因検査
着床不全や不育症が疑われる場合に行われる検査
着床不全や不育症が疑われる場合、原因を調べるために検査を行い、必要に応じて治療を検討します。
検査は、子宮の状態・胚(受精卵)側の要因・免疫や血液凝固の異常・ホルモン異常など、多角的に評価します。
超音波検査
超音波を用いて子宮や卵巣の状態を確認する検査です。
経腟超音波検査では、以下のような病気や異常の有無を調べます。
- 子宮筋腫
- 子宮内膜症
- 卵巣腫瘍(卵巣嚢腫など)
- 子宮の形(形態異常の疑い)
- 子宮内膜の厚さや状態
子宮鏡検査
子宮内腔に細い内視鏡(カメラ)を入れ、子宮の中を直接観察する検査です。
着床の妨げとなる病変の有無を、より詳しく確認できます。
- 子宮内膜ポリープ
- 子宮内腔の癒着
- 子宮奇形の疑い など
免疫検査
妊娠には、受精卵を受け入れる免疫の働き(免疫寛容)が必要です。
免疫のバランスの乱れが疑われる場合、血液検査や子宮内膜の検査を行います。
- 血液検査(例:Th1/Th2 バランス、NK活性など)
- 子宮内膜検査(例:CD138検査 ※慢性子宮内膜炎の評価にも用いられます)
受精卵着床前検査(PGT-A)
体外受精等で得られた受精卵(胚)の一部を採取し、染色体の数に過不足がないかを調べる検査です。
胚の見た目が良好でも着床しない場合や流産を繰り返す場合などに、原因の評価として検討されることがあります。
抗リン脂質抗体検査
不育症が疑われる際に行う血液検査です。
抗リン脂質抗体が陽性の場合、血栓ができやすくなり、胎盤の血管で血流障害が起こることで胎児に栄養が届きにくくなり、流産のリスクが高くなる可能性があります
内分泌検査
血液検査で、妊娠や流産リスクに関わるホルモン・代謝の状態を調べます。
- 甲状腺機能(TSH、FT4 など)
- 糖代謝(血糖、HbA1c など)
甲状腺機能亢進症/甲状腺機能低下症、糖尿病などがある場合は、不妊や妊娠経過に影響する可能性があるため、必要に応じて治療やコントロールを行います。
免疫・凝固異常の治療
検査結果により、免疫や血液凝固の異常が関与していると考えられる場合は、原因に応じて治療を検討します。
免疫異常に対する治療
タクロリムス
免疫寛容(受精卵を受け入れる免疫の働き)のバランス異常が疑われる場合、免疫の働きを調整する目的で、タクロリムス(免疫抑制剤)を使用することがあります。
服用開始の時期や期間は、治療内容や患者さまの状況により異なります。
免疫グロブリン大量療法
不育症患者に対するヒト免疫グロブリン療法は1990年代から欧米を中心に行われてきましたが、有効性に関する結論はまだ出ていません。本邦では、山田らが4回以上の流産歴のある難治症例に対して、妊娠初期からヒト免疫グロブリン療法を行い、高い生児獲得率を報告しています1)。また2014年からヒト免疫グロブリン療法の有効性を調べる目的で他施設ランダム化比較研究が行われ、ヒト免疫グロブリンを投与した群では、有意に妊娠継続率、生産率が高かったと報告しています2)。
- しかしながら本治療は、有効性を示す報告があるものの、未だ研究段階であり、十分に確立された治療ではなく、保険適用外使用となります。
1)H Yamada, et al. A High Dose Intravenous Immunoglobulin Therapy for Women with Four or More Recurrent Spontaneous Abortions ISRN Obstet Gynecol. 2012 ; 2012 : 512732
2)H Yamada, et al. Intravenous immunoglobulin treatment in women with four or more recurrent pregnancy losses: A double-blind, randomised, placebo-controlled trial Eclinical MedicineI. 2022 ; 50 : 101527
凝固異常に対する治療(抗血栓療法)
血栓ができやすい体質や凝固異常が疑われる場合、抗血栓薬を用いることがあります。
- 低用量アスピリン(内服)
- ヘパリン(注射)
多くの場合は低用量アスピリンを使用し、必要に応じてヘパリンを併用します。
特に抗リン脂質抗体症候群などが認められる場合は、医師の判断により併用療法を検討することがあります。
ヘパリンは、1日数回の皮下注射を行う治療で、開始時期や継続期間は妊娠経過やリスクに応じて個別に決定します。
- 治療内容はすべての方に適応となるものではなく、検査結果・既往歴・治療経過をふまえてご提案いたします。
よくある質問
- Q. 着床不全は何回から疑いますか?
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一般的には、良好な胚を2〜3回以上移植しても妊娠に至らない場合に、着床不全を疑い、詳しい検査を検討します。
ただし、年齢や胚の質、これまでの治療経過によって判断は異なるため、当院では画一的な回数ではなく、患者様お一人おひとりの状況に応じて評価しています。 - Q. 免疫検査は全員に必要ですか?
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免疫検査はすべての方に行うわけではありません。
反復不成功例や流産歴のある方など、必要と判断される場合に限って実施しています。
検査の有無は、胚の状態や子宮環境、これまでの経過を総合的に考慮したうえで決定します。 - Q. タクロリムスは安全ですか?
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タクロリムスは本来、臓器移植などで使用されている免疫抑制薬ですが、着床不全の一部のケースでは、免疫バランスの調整目的で使用されることがあります。
当院では、適応を慎重に判断し、必要最小限の用量で使用しています。
副作用やリスクについても事前に十分ご説明し、安全性に配慮しながら治療を行っています。 - Q. PGT-Aは誰でも受けられますか?
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PGT-Aは、すべての方に適応される検査ではありません。
主に反復不成功例や流産を繰り返す方などで検討されます。
年齢や胚の状況、治療歴などを踏まえ、医学的に有用と判断される場合にご提案しています。 - Q. 治療後、どのくらいで胚移植ができますか?
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検査や治療内容によって異なります。
単純な検査のみで異常がなければ、次周期以降に移植が可能な場合もあります。
一方、慢性子宮内膜炎や免疫異常などが見つかった場合は、治療後に改善を確認してから移植を行うため、数週間から数か月かかることがあります。
当院では、検査結果を踏まえ、最も妊娠の可能性が高まるタイミングで移植をご提案しています。