- 6月 23, 2026
- 6月 24, 2026
PCOSがPMOSへ ― 多嚢胞性卵巣症候群の名称変更が国際的に合意されました
東京ARTクリニック院長の小川です。今回は、生殖医療分野で話題となっている「PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の名称変更」についてご紹介します。
2026年5月、医学雑誌「The Lancet」(Vol 407 June 6, 2026)において、PCOSの新しい名称として
PMOS(Polyendocrine Metabolic Ovarian Syndrome:多内分泌代謝性卵巣症候群)が国際的なコンセンサスのもとで発表されました。
PCOSとはどのような病気?
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、生殖年齢女性のおよそ8人に1人に当てはまると言われています。特に20~30代女性における月経不順の主要な原因の一つとして知られています。
主な特徴として
- 月経不順
- 排卵障害
- 男性ホルモン過剰によるニキビや多毛
- 肥満
- インスリン抵抗性
などが挙げられます。
不妊治療の現場でも、排卵障害による不妊症の代表的な原因として日常的に診療しています。
なぜ名称変更が必要だったのでしょうか?
実は「多嚢胞性卵巣症候群(Polycystic Ovary Syndrome)」という名前には以前から問題点が指摘されていました。
「Polycystic(多嚢胞)」という言葉から、多くの方は卵巣に嚢胞(のうほう)がたくさんできる病気を想像します。
しかしPCOSで見られるのは病的な卵巣嚢胞ではなく、小さな卵胞が多数存在する状態です。
つまり、実際には「嚢胞」の病気ではないのです。
さらにPCOSは卵巣だけの病気ではありません。
近年の研究により、
- インスリン抵抗性
- 糖尿病
- 脂質異常症
- 高血圧
- 脂肪肝
- 心血管疾患
- 睡眠時無呼吸症候群
などの代謝異常とも深く関連することが明らかになっています。
また、
- 不妊症
- 流産
- 妊娠合併症
だけでなく、
- うつ
- 不安障害
- QOL低下
など心理的側面への影響も報告されています。
つまりPCOSは「卵巣の病気」というよりも、全身の内分泌・代謝異常を背景とした疾患であることが分かってきたのです。
PMOSとは?
今回採用された新名称は
Polyendocrine Metabolic Ovarian Syndrome(PMOS)
です。
それぞれの意味は以下の通りです。
Polyendocrine(多内分泌)
- 男性ホルモン(アンドロゲン)
- インスリン
- LH
- AMH
など複数のホルモン異常が関与しています。
Metabolic(代謝性)
インスリン抵抗性や肥満、糖尿病などの代謝異常が病態の中心にあります。
Ovarian(卵巣性)
排卵障害や卵胞発育異常など、卵巣機能異常は依然として重要な病態です。
この名称は、現在の病態理解をより正確に反映していると考えられています。
どのように決まったのか?
今回の名称変更は、一部の専門家だけで決められたものではありません。
世界中の
- 患者さん
- 生殖医療医
- 内分泌専門医
- 研究者
など14,000人以上が参加した大規模なアンケートやワークショップを経て決定されました。
世界56の関連団体も参加し、非常に透明性の高いプロセスで合意形成が行われています。
今後どうなる?
すぐにPCOSという言葉がなくなるわけではありません。
論文では約3年間の移行期間が提案されており、
「PMOS(旧PCOS)」
という表記がしばらく併用される見込みです。
今後、
- 国際診療ガイドライン
- WHOの疾病分類
- 医学教育
- 電子カルテ
などにも順次反映されていく予定です。
東京ARTクリニックから
今回の名称変更は単なる言葉の変更ではありません。
「PCOSは卵巣だけの病気ではなく、全身の内分泌・代謝異常を背景とした疾患である」
という近年の医学的理解を反映したものです。
不妊治療においても、排卵誘発だけでなく、体重管理や生活習慣改善、インスリン抵抗性へのアプローチが重要であることが改めて示されたと言えます。
今後も東京ARTクリニックでは、最新のエビデンスに基づいた情報を分かりやすくお伝えしてまいります。