- 6月 17, 2026
ネオセルフ抗体とは?〜ネオセルフ抗体と子宮内フローラの意外な関連〜
こんにちは、東京ARTクリニック院長の小川です。
今後、私からは不妊治療に関連した最新の論文をこのブログでご紹介していきたいと思います。
今回は、近年注目されており、現在は先進医療として検査を受けることもできる「ネオセルフ抗体」に関する最新の論文をご紹介します。
まずネオセルフ抗体とは、近年発見された新しい自己抗体の一種で、正式には 抗β2GPI/HLA-DR抗体(β2GPIネオセルフ抗体) と呼ばれます。炎症や感染などが契機となり、細胞の表面に異所性HLAクラスIIと呼ばれるタンパクが発現し、そこにβ2GPIが結合して複合体(β2GPI/HLA-DR複合体構造)を形成します。この複合体に対する抗体をネオセルフ抗体と呼びます。β2GPI抗体自体は以前から、不育症検査として調べられていた抗体ですが、ネオセルフ抗体は私たちの体の中で実際に形成されている複合体に対する抗体を測定しますので、従来の抗β2GPI抗体では捉えられない症例も検出できる可能性があり、より臨床的意義の高い自己抗体として注目されています。
不育症患者や反復着床不全患者の一定割合で陽性となることが報告されており、現在は2回以上の流産既往のある方が先進医療として検査できる適応になっています(自費であれば、適応に関係なく検査することが可能です)。
今日はこのネオセルフ抗体と近年着目されている慢性子宮内膜炎や内膜内フローラ(子宮内細菌叢)について調べた論文をご紹介します。
【論文】
タイトル:Uterine Endometrial Microbiome and Chronic Endometritis in Relation to Anti- β2- Glycoprotein I (β2GPI)/Human Leukocyte Antigen (HLA)- DR Autoantibodies in Women With Recurrent Implantation Failure and Recurrent Pregnancy Loss: A Cross- Sectional Study
著者:Yosuke Ono, Hajime Ota, Maki Ogi, Yoshiyuki Fukushi, Shinichiro Wada, Hisashi Arase, Osamu Yoshino, Hideto Yamada
掲載誌:Reproductive Medicine and Biology
今回の研究の概要
山梨大学と手稲渓仁会病院の研究グループは、
- 反復着床不全(54例)
- 習慣流産(87例)
合計141名を対象に、
- ネオセルフ抗体
- 子宮内フローラ(子宮内マイクロバイオーム)
- 慢性子宮内膜炎
との関連を調べました。
反復着床不全では子宮内細菌叢の異常と関連
最も興味深い結果は、反復着床不全患者において、ネオセルフ抗体陽性の患者では子宮内フローラ異常が有意に多かったことです。
特に、 Lactobacillus iners、Prevotella、Anaerococcus、Ureaplasma など、これまで着床不全や子宮内環境の悪化との関連が報告されている細菌が多く検出されました。
Lactobacillus inersとは?
ラクトバチルス属は一般的に「善玉菌」と考えられています。しかし、その中でも Lactobacillus iners は少し特殊で、近年の研究では、慢性子宮内膜炎や着床率の低下との関連性が報告されています。
つまり、「ラクトバチルスがいる=良好な環境」
とは必ずしも言えず、Lactobacillus iners優位の状態は、子宮内環境が乱れ始めている兆候である可能性があります。
慢性子宮内膜炎との関連は?
一方で、ネオセルフ抗体陽性群と陰性群で、慢性子宮内膜炎(CD138陽性)の頻度には差がありませんでした。
つまり、ネオセルフ抗体は慢性子宮内膜炎そのものではなく、より早期の子宮内フローラ異常や軽度の炎症を反映している可能性があります。
習慣流産では異なる結果
また、習慣流産患者では、子宮内フローラ異常全体との関連は認められませんでした。
臨床的に何が重要か?
今回の研究から、
・子宮内フローラ異常が認められた患者さんでは、ネオセルフ抗体を測定する
・ネオセルフ抗体陽性の患者さんでは、子宮内フローラを評価する
という相互的な診療戦略の可能性が示されました。
今後期待される治療
著者らは将来的な治療戦略として、
- 子宮内フローラ異常の改善
- 抗菌薬
- プロバイオティクス
- ネオセルフ抗体陽性例への治療
- 低用量アスピリン
- ヘパリン療法
を組み合わせることで、妊娠成績が改善する可能性を示唆しています。
まとめ
- ネオセルフ抗体(抗β2GPI/HLA-DR抗体)は反復着床不全と関連する新しい自己抗体です。
- ネオセルフ抗体陽性患者では子宮内フローラ異常が多く認められました。
- 特にLactobacillus inersや着床不全関連菌との関連が強く認められました。
- 慢性子宮内膜炎との関連は認められませんでした。
- ネオセルフ抗体は「子宮内環境の異常」を反映する新しいバイオマーカーとなる可能性があります。
当院でも反復着床不全や反復流産の患者様に対して、子宮内フローラ検査やネオセルフ抗体検査を組み合わせながら原因検索を行っています。
まだ研究段階の部分もありますが、今後は「免疫」と「子宮内環境」の両面から評価することで、より個別化された不妊治療が可能になると期待されています。